僕はその日、きれいに砥いだ鋏で長く伸びた前髪を切り落とした。

湯をはったボウルに、
シャンデリアの光が反射する中で。



その夜、僕は実に上機嫌だった。

黒い猫がバスタオルを運び、胸元の水面には赤い薔薇が浮かぶ。
嗅ぎ慣れたブラッディローズの香りの中で、久々に訪れたゆるやかなバス・タイム。

静かにかかるベルリオーズの叙情的情景は、ゲルギエフ指揮。
コープマンの旋律と異なるそれは、美醜の対比が実に美しい。

時間というものは、こんなにもゆるやかな存在であったのだろうか。
思えば、ずいぶんと忙しく時を消化していた気がする。
気づけば、見えなくなったものも、増えた。

そうして暖かな湯気の中。
僕は目を閉じ、静かに邂逅する。



静寂を破ったのは1本のメールだった。

送信元は見慣れないアドレス。


不思議に思いながらメールを開く。




「わたし、メリーさん。今あなたの家の前にいるの」





・・思考が停止した。





「えっ。。。」


急いで湯をあがり、濡れたままの肌にキャミソールを纏う。

玄関に駆け寄ると、ドアスコープの向こう側に、確かに“その女”が存在した。




ため息をつき、ドアを開ける。





「アドレス変えたなら言ってよね・・お母さん・・・」







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